長年にわたり、イエローナイフのダウンタウン中心部を走るメインストリートは「Franklin Avenue(フランクリン・アベニュー)」として知られています。
2026年6月、この通りは新しい名前 「Wıı̀lıı̀deh Avenue(ウィーリーデー・アベニュー)」 となりました。
一見すると単なる道路名の変更に見えるかもしれません。しかしその背景には、この土地に何千年も暮らしてきた人々の歴史や言葉、そして自然との深いつながりが込められています。
Wıı̀lıı̀dehとは何を意味するのか
Wıı̀lıı̀dehは、Yellowknives Dene First Nationの言葉で、
「コニー(Coney Fish)がいる場所」
という意味を持つ伝統的な地名です。
この「コニー」とは、 Inconnu(インコヌー) と呼ばれる大型の淡水魚を指します。
グレートスレーブ湖や周辺河川に生息する魚で、1メートルを超えることもある大型魚です。
見た目は銀色の大きなコイのようにも見えますが、実はサケの仲間です。
かつてはイエローナイフ川周辺でも重要な魚として知られ、この魚が多く見られたことからWıı̀lıı̀dehという地名が生まれたと伝えられています。
地名からこの地域の人々を表す言葉へ
現在のWıı̀lıı̀dehという言葉は、単なる地名以上の意味を持っています。
例えば、
- Wıı̀lıı̀deh Yatı̀(ウィーリーデー方言)
- Wıı̀lıı̀deh Site
- Wıı̀lıı̀deh People
などの形で使われています。
もともとは「インコヌーのいる場所」という地名でしたが、
その土地に暮らす人々、
その人々が話す言葉、
を表す言葉へと発展していきました。
日本で例えるなら、
「京都」
→ 京都の人
→ 京都弁
のような関係に近いかもしれません。
今回の道路名変更は、単に魚に由来する名前へ変わるという話ではなく、この地域に暮らしてきたYellowknives Deneの歴史や言語を街の中心部に反映する取り組みとも言えます。
北海道の「イトウ」を思い出す名前
この話を聞と私は北海道のアイヌ文化に伝わる巨大魚「イトウ」の話を思い出します。
イトウもまたサケ科の大型魚で、北海道の川や湖に生息していました。
アイヌの伝承では、
- 川の主
- 巨大な魚
- 鹿や熊を飲み込むほどの存在
として語られることもあります。
もちろんインコヌーとイトウは別の魚です。
しかし、
「北方の先住民文化の中で特別な意味を持つ大型魚」
という点ではどこか共通するものを感じます。
人々の生活を支え、
物語となり、
地名として残る。
遠く離れた北海道とカナダ北部ですが、不思議な共通点があるように思います。
フランクリンからWıı̀lıı̀dehへ
これまでのFranklin Avenueという名前は、19世紀の英国探検家
John Franklinに由来しています。
一方でWıı̀lıı̀dehは、この土地に古くから存在していたデネの言葉です。
今回の改名は、
「探検家の名前を消す」
というよりも、
この土地にもともとあった名前を街の中心に戻す
という意味合いで受け止める方が自然かもしれません。
イエローナイフは人口約2万人の小さな北の街ですが、現在では住民の約4人に1人が先住民です。
街を理解するためには、鉱山やオーロラだけでなく、この土地の歴史や言葉を知ることも大切です。

【現地ガイドの目線】
観光で訪れると、「Wıı̀lıı̀deh」という言葉は少し難しく感じるかもしれません。
しかし、この名前には単なる道路名以上の意味があります。
私がイエローナイフで暮らし始めてからも、先住民の友人や仕事仲間との会話の中で、家族のこと、狩猟のこと、カリブーのこと、そして土地とのつながりについて話を聞く機会がありました。
Wıı̀lıı̀deh Avenueという名前は、そうした人々の歴史や言葉が今も続いていることを示す象徴の一つなのだと思います。
これからダウンタウンを歩くときは、ぜひ新しい道路標識にも注目してみてください。
参考
- Yellowknives Dene First Nation
- Yellowknife
- City of Yellowknife / Yellowknives Dene First Nation 発表資料